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現代の「忘れられた日本人」たち/驚きの介護民俗学

高齢者を取り巻く環境

昨年6月、大都市に住む高齢者の地方への移住を促進する政府方針が発表されました。賛否は様々あるようですが、高齢者に限らなければ、地方への移住促進の流れは中長期的には変わりそうにありません。大都市でなく、生まれ育った地元でもない地域で生活するスタイルは、今後、より一般的になるでしょう。かくいう私も東京で生まれ、静岡県内を転々としながら育ち、東京と広島で会社勤めをし、今は縁あって松山で暮らしています。将来は地方においても、昔からその地域にいる人とそうでない人が混じり合って「地域の高齢者」となっていくのかも知れません。

現代の「忘れられた日本人」たち

さて、高齢者という用語からは「介護」「福祉」など「守られる存在」としてのイメージが喚起されがちですが、今回紹介する「驚きの介護民俗学」は(タイトルこそ「介護」とついていますが)別の観方を示してくれています。

著者の六車由美氏は民俗学者であり、また現役の社会福祉士、介護職員でもあります。氏は本書の中で、「高齢者」を宮本常一の「忘れられた日本人」に例えています。氏の民俗学的聞き書きから引き出された高齢者の豊饒な記憶群によって、私たちの現前にある「今」「ここ」が異なる様相を帯びて見えてきます。この体験は、日常が「変化はしている」しかし「実は何も変わっていない」と感じる者にとっては驚きであり、また喜びでもあります。氏が本書で紹介している高齢者たちは、まさに宮本常一が残し、伝えようとした「忘れられた日本人」と同じ存在なのだと思います。

私たちは「忘れられた日本人」となりうるか

本書に出てくる高齢者が特別な存在というわけではありません。私は地域の独居高齢者みまもり員をしていますが、お宅に伺うと、わずか5分や10分程度の時間でも「昔はこの時期になると干し柿を軒下にたくさんつるしていたものだよ」とか「このあたりは今市(昔の地名)といったんだよ」等と教えてくれます。この人たちもまた、「今」「ここ」しか知らない私にとって大切な存在です。

本書は、ごく普通の、市井に生きてきた人々が、現代に生きる者たちに驚きと喜びを与える存在たりうることを教えてくれます。

いずれは私たちも高齢者になります。

誰もが避けることのできない「老い」に向け、「今」をどのように過ごすのか。
私には、本書が「希望」を示してくれているように思えます。

 


事務所URLもぜひご覧ください。
https://ola-dogo.com

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