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地域の絆と犯罪には何の関係もないか(後編)

前回は、

  • 統計上は成年・未成年を問わず犯罪が増加・凶悪化しているとはいい難い
  • それにもかかわらず、多くの人が「犯罪不安」を感じている

ということを確認しました。
今回は、

  • 人々の「犯罪不安」に客観的な根拠はないのか
  • 地域の防犯活動の「犯罪不安」に対する処方箋

について考えてみたいと思います。

犯罪不安にも客観的な根拠はある
あらためて犯罪白書(平成26年度版)を見てみましょう。
「刑法犯 認知件数・検挙人員・検挙率の推移」を見ると、特徴的な変化が見て取れます。

刑法犯推移

平成に入って刑法犯全般の認知件数が増加し続けるのに対し、検挙率は極端に減少しています。平成14年前後には認知件数がピークを迎えるのに対し、検挙率は最低となります。その後、認知件数は減少に転じ昭和レベルにまで落ち着きますが、検挙率の回復度合いはそこまでに至っていません。

これには諸説ありますが、代表的なものは下記です。

  • 統計前提の変化

統計において極端な変化があった場合は、前提条件の変化の有無を確認するのがセオリーです。調べてみると、警察庁は平成8年から「住民からの相談業務の充実強化」を基本方針に据えました。それに伴い、受理する案件そのものが増加した、とするのがこの説です。
一方で、下記のような「実態変化説」もあります。

  • 受理案件の増加による対応人員の不足
  • 団塊世代の大量退職(いわゆる2007年問題)による経験豊富な捜査員の減少

これらは、警察の組織的な能力低下が検挙率の低下をもたらしたとする説です。
さらに、犯罪の発生環境そのものに変化があったとする説もあります。(これには、失業率の増加が犯罪発生率を増加させる、という実証研究を背景としています。)

  • 平成9年の消費増税(3%から5%)とその後の景気落ち込みによる人心の荒廃

それではもう少し詳しく、犯罪の種類別で見てみるとどうでしょうか。
「一般刑法犯 認知件数・検挙人員・検挙率の推移(罪名別)」によると、殺人については20年前に比べて認知件数が減少しており、検挙率も一貫して高い水準を維持しています。ところが、その他の凶悪犯罪(強盗、強姦、放火)については20年前と比べて認知件数が同程度もしくは減っているのにもかかわらず、検挙率も落ちています。これは先の「統計前提の変化」では説明しきれません。
近所で強盗や強姦、放火が起きたら「怖いな」「真犯人が早く見つかると安心だな」と思うのは自然な感情です。多くの人々が犯罪不安を抱く背景には、報道イメージによる印象的・心理的な側面だけでなく、検挙率の低下という実態的な側面もありそうです。

地域防犯活動 興隆の背景
「自主防犯活動を行う地域住民・ボランティア団体の活動状況について」によると、平成24年時点で警察庁が把握している、月1回以上の活動実績のある5人以上の地域防犯団体の数は、全国で46,673団体です。これらの団体は平成15年には3,000余りでしたが、その後3年間で10倍の31,000までに増えています。つまり、平成14年前後の「一般刑法犯認知件数増加と検挙率の低下」とほぼ軌を一にして、地域の防犯活動が活発になったことになります。
もともと日本では「地域住民の緊密な関係」が犯罪抑制機能の一翼を担ってきており、それによって諸外国と比べて高い治安を維持してきたと言われています。近隣住民が互いに顔見知りであれば、地域内で変わった様子があればすぐにわかりますし、不審者がいれば目立ちます。そういった地域住民のネットワークが、警察の捜査を助けてきたというわけです。そして、「一般刑法犯認知件数増加と検挙率の低下」を目の当たりにした当時の政府は「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」を策定しました。これに沿って「警察と地域との連帯推進」をしたことが、防犯ボランティア団体を急増させました。
つまり「地域の絆が弱まったから犯罪が増えた」のではなく、「犯罪が増えたから(検挙率が低下したから)地域の絆を強めようと考えた」わけです。

地域防犯活動のあらたな可能性
さて、地域防犯団体がこれまで以上に活動を強化する必要があるのか、それともパオロ氏の言う通り、もうすでに十分行っているのだからムリに活動を強化する必要はないのか。
私は、従来の地域防犯活動を強化する必要はないが、「犯罪不安」の低減に向けた活動の余地はあると考えています。

もう一度「少年非行情勢」の再犯者率*を見てみましょう。
*再犯者率:刑法犯検挙人員に占める再犯者の割合であり、犯罪を犯した人物が再び犯罪を犯す割合ではない点に留意してください。
グラフpic
出典:
平成26年度 少年非行情勢(P18)
平成27年度上期 少年非行情勢(P18)

再犯者率の上昇が目立つことは前回も触れました。今回私が注目しているのは、凶悪犯や粗暴犯の再犯者率が50%~60%と高く、かつ、ほぼ一定水準で推移してきている点です。認知件数は約1/4~1/5に減少しているのに、半数以上が常に再犯者で占められています。何故なのでしょうか。理由を調べてみましたが、これだ、という説は見当たりませんでした。政府は「再犯防止に向けた総合対策」において、再犯者率の高さに関して「犯罪へと至るには様々な要因が複雑に絡み合っている」とし、「犯罪を犯した者が社会に戻ることを長期的に支援する必要がある」と表現するに留めています。

地域防犯活動のガイドを見ると、基本的な防犯手法として「誰かが見ているという雰囲気を作る」「犯罪者を寄せ付けないよう見通しの良い街を作る」「住民のコミュニティ意識を醸成する」という3原則が紹介されています。また、割れ窓理論を引用して「どんな軽微な犯罪も見逃さず」適切な対応をとることが肝要であるともしています。 これらからは「私たちの街を犯罪(者)から守る!」という固い決意が感じられます。
しかし、少年の再犯防止に「社会への帰還を長期的に支援すること」が必要なのだとしたら、「犯罪(者)を排除・抑止する防犯活動」とはあまり相性が良くなさそうです。少し堅苦しい表現ですが「地域の包摂性を高める防犯活動」ができれば、再犯者の割合を今よりも少なくすることができるかもしれません。認知件数は確実に減ってきているのですから、再犯者の割合が減ればさらに認知件数は減るでしょう。認知件数が減れば、警察の投入できる捜査力は増えますから、検挙率は回復し、人々の犯罪不安の実態的な根拠に影響を与えることができるかもしれない。これが、私の考える地域の防犯活動の「犯罪不安」に対する処方箋です。

「具体的にどうするの?」と問われると今のところ妙案はありませんが、地域の見守り活動の際には今回の知見を心がけていこうと思っています。「うちの地域ではもうやってるよ!」という方がいらっしゃれば、ぜひご連絡ください。私たちの地域の活動に活かすと同時に、本blogでも紹介していきたいと思います。


事務所HPはこちらからどうぞ。
https://ola-dogo.com

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