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地域の絆と犯罪には何の関係もないか(前編)

子供を取り巻く環境が変わった、という感覚
先日、小学生の子供を持つお母さんから、こんな話を伺いました。
「幼稚園の頃とにかく子供が言うことを聞かなくて、『もうそんなに言うこときかないなら家から出ていきなさい!』って怒ったら、『はーい 』って返事してから本当に出ていってしまって、まさかそのまま放っておくわけにもいかないから『ちょっと待ちなさい!』って慌てて追いかけて、あの時はホント参りました・・」

親に怒られて躊躇なく家を飛び出す幼稚園児というのもたいしたものだな、と感心しつつ、お母さんに「それは大変でしたね」と相槌を打っていたわけですが、そういえば、自分も小学生の頃、親に怒られて家から閉め出されたことがありました。

夕飯時に家から追い出され、途方に暮れて近所をぶらぶらした挙句、家に戻って玄関先から大声で「ごめんなさい!もうしませんから家に入れて!」と謝って許してもらった、という顛末でした。当時は親に怒られて外に締め出される、という経験はそれほど特異なものではなかったように思います。私の妻も小学生時分、親に怒られて家を飛び出し、ガレージの車の中で一晩明かしたそうです。

しかし、新聞やテレビで子供が被害者となる事件に触れるにつけ(またその加害者が未成年であったりすればなおさら)、冒頭のお母さんの気持ちもわかります。小さな子供が街を一人でフラフラしていたら、事件に巻き込まれてしまうかもしれない。そういえば、近所の小学生は毎日集団で登下校をしています。自分が小学生のころには見られなかった光景です。

少年事件をめぐる報道・議論
今夏、警察庁が平成27年上半期「少年非行情勢」を発表しました。これを受け、マスメディアは「少年犯罪の再犯者が過去最悪となった」と報道しました。例えば、NHKの報道は以下のようなものです。

ことし上半期に刑法犯罪を起こしたとして、警察に検挙された少年や少女は全国で1万9000人余りで、再び事件を起こすなどして検挙された再犯者の割合が、これまでで最も高い40%近くに上ったことが分かりました。 このうち、再び事件を起こすなどして検挙された再犯者は7179人で、その割合は全体の37%と、6年連続で増加し、統計のある平成元年以降、最も高くなりました。特に殺人や強盗など凶悪犯罪の再犯者の割合は61%と、高い水準になっています。 (以下略)

こういった報道は、未成年者による犯罪が起こるたびになされます。曰く、

  • 少年犯罪は年々増加、凶悪化している
  • 家庭(親)や学校(教師)の教育に原因がある
  • 少年犯罪の抑止には更なる厳罰化でのぞむべき

例えば下記のようなものです。
【川崎中1殺害】少年事件「厳罰化」 流れに沿った家裁決定(産経新聞 2015.5.12付)

一方で、

  • この10年間、少年犯罪全体の検挙者数は実数、対人口比率ともに減少しているし、再犯者数も実数は減少している
  • 少年による凶悪犯罪(殺人、強盗、放火、強姦)も同様の傾向である(少なくとも顕著な増加傾向はみられない)
  • 再犯者率の上昇(平成17年  28.7%、平成27年上期 37%)は、一連の少年法の厳罰化がむしろ有効でないことを示している

といった、報道に懐疑的な意見も多く見られます。
「少年犯罪の再犯が約4割で平成以降で最高、との報道に関して首を傾げて確認してみたら」(ガベージニュース/ライトニングストレージ 2015.8.31付)

「地域社会の空洞化」と「犯罪」とは関係ない!
後者に属する意見で特に私が興味を惹かれたのは、パオロ・マッツァリーノ氏の「何度でも言う。地域の絆と犯罪にはなんの関係もない」(反社会学講座ブログ 2015.8.23付)という文章です。氏は「反社会学講座」や「つっこみ力」、「「昔はよかった」病」等の著者で、統計や文献等の実証資料を踏まえつつ、本来社会のことをよく知っているべき社会学者が実は社会のことを良く知らずに誤った知識を世間に流布している、と皮肉を交えつつ批判する方です。本業は社会学者だという噂もありますが、正体は謎のイタリア人(自称)です。

    

先の文章の中で氏は、「地域社会の空洞化」と「犯罪」を短絡的に結びつけてはならないとします。その理由は至極単純です。

むかしに比べて地域の絆が弱くなった。と同時に、犯罪はむかしより減っている。だとしたら、絆が弱まるほど犯罪は減るという結論になってしまいます。

そして、

結論はどう見てもあきらかです。絆と犯罪には、なんの因果関係もありません。犯罪が起きるのは地域の絆が薄いせいではありませんし、地域の絆を強めても犯罪が減るという保障はなにもありません。

と続き、最後に、

これ以上ムリをして住民を防犯活動に駆り立てても、普通の生活が犠牲になるだけでなんの効果も得られないでしょう。
ですから、いえることはひとつ。勇気を持って、いままで通りの生活を続けることです。こどもたちには、この町は安全だけど、悪意のある人間に遭遇する可能性はゼロではないし、どんなにオトナががんばっても防げないのだ、と事実を教えて覚悟を持たせるべきです。そのうえで、これまでどおり、普通に生活する。それがベストの選択です。

と結論づけます。
パオロ氏の「犯罪はむかしより減っている」という指摘は、少年犯罪も含めた刑法犯全般のことを指しており、これは統計数値に根拠づけられています。
「少年非行情勢」からは、少年犯罪が増加しているとも凶悪化しているとも言いきれませんでした。また成年犯罪についても、刑法犯全般・凶悪犯ともに認知件数は減ってきています。

・刑法犯の認知件数・検挙件数推移
刑法犯認知・検挙状況推移

・凶悪犯の認知件数・検挙件数比較(H16/H26)
凶悪犯認知・検挙状況_比較_H16_H26

出典:
警察庁 平成26年の刑法犯認知・検挙状況【確定値】
警察庁 平成25年の犯罪情勢(P105~106参照)

それでも多くの人は「不安を感じて」いる
しかし、内閣府の調査によると8割近くの人が少年による重大な事件が増えていると感じており、その不安傾向は男性より女性、大都市より地方、若年層より高齢者に多くみられるとしています。
「79%は「5年前と比べて少年重大事件は増えている」と思っている」(ガベージニュース 2015.10.13付)
8割もの人々が抱いているこれらの不安はすべて、報道イメージによる根拠のないものに過ぎないのでしょうか。また、パオロ氏の言う通り、地域住民が「ムリをして」今以上の防犯活動をしても効果はないのでしょうか。
次回、この2点について考えてみたいと思います。


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